2007 私のお気に入り or Best 3 By feelie
私のお気に入りorベスト」とありますので、お気に入りのほうで。なにしろ、昨年発売の新録/CD再発をジャズではあわせて30枚程度しか買ってないという体たらく。

リファレンスとして、特に聴いた旧譜ジャズ、他ジャンル新録/再発をあげておきます。

[リファレンス:筆者]
・旧譜ジャズ
Jackie McLean「Ghetto Lullaby」73年 Inner City
・新録ベスト
Mitch Easter「Dynamico」Electric Devil
Joe Ely「Silver City」Rack'em
Robert Plant & Alison Krauss「Raising Sands」Rounder

・再発ベスト
The Red Crayola「Soldier-Talk」79年 Rader/Drag City

■ 新録CD

新録CDタイトル 1
4 Corners

アーティスト名

ミュージシャン Adam Lane(double bass)/Ken Vandermark(bs,cl,b-cl)/Magnus Broo(tp)/Paal Nilssen-Love(ds)

今年も多数の自分のグループ名義のリリースをした現在43歳(自分と同じ)のKen Vandermark(本人のWebサイトによると10枚らしい)。そのうち入手したのは6枚。フリー/アヴァンギャルドとショップではカテゴライズされている彼ですが、6枚のどれもが、アンサンブルとその上でのソリストの振る舞いに焦点が置かれた、ある意味伝統的なもの。しかも、多様に、ジャズやその接する領域のサウンドが配置されています(とはいえ本人のノイズ成分の多い激情型のソロは、ショップの判断をまったく肯定しているとも思いますが)。 06年のポルトガルでのライヴ録音「4 Corners」。冒頭のVandermark曲では、若手ベースのAdam Laneが決定づける(音量レベルもでかい)。かつてのブリティッシュロックを思わせるヘヴィでアッパーなリフが、tpの静寂なソロから、バンド全体でのコレクティヴなソロを展開するブレイク時にも、ダブのように残像が頭に残り、そのリフが戻ってきたときの、リアルな音でのbsとdsの熱狂と、リスナー脳内ローカルなリフを欲する感情がないまぜになって、バンっという感じ。 他のVandarmrk曲[3][6]残りのLane曲は、ややハードバップ寄りなテーマを中心に、同様な展開/しかけをする。フリーなソロを、スウィングするテーマで、というのは珍しくはないと思うのですが(Adams/Pullenとか)、テーマがここまで、熱くかっこいいのはなかなか出会えない、というのもあります。

レーベル clean feed

[リファレンス:CD1]
(((Powerhouse Sound)))「Oslo/Chicago(((Breaks)))」07年 Atavistic Ken Vandermarkが、Miles/Stooges/Hank Shocklee/Bernie Worrell/Lee Perry/Coxsonne Dodd/Burning Spearに捧げた自作曲を、オスロでAtomic、シカゴでTortoiseのメンバーと同じ曲を2枚組で録音した、ベースリフ主体のエレクトリックバンドサウンド。ジャズロック的というより、80年代初期ポストパンク期の擬似ファンク的に思える。ここでのVandermarkは、やたらとホンクでストレート。

Territory Band-6 with Fred Anderson「Collide」07年 Okka AACMの78歳にもなるFred Anderson(ts)をゲストに迎えた、シカゴのVandermark主催のオーケストラの最新作。ブラス×2(tuba,tp)/リード×4/ピアノ/ギター/ベース/チェロ/ドラム/打楽器にエレクトロニクスという編成(バンド名とは違い北欧系ミュージシャンも参加する)での06年の地元でのライヴ録音。後半のセットはフリーだが、[1][2]はテーマはあくまでスウィングし、アンサンブルは精密に展開する。


新録CDタイトル 2
Downpour

アーティスト名

Nels Cline(g)/Andrea Parkins(acc,p,sampler,clavier)/Tom Rainey(ds,perc)

06年のライヴ録音「Downpour」は、Wilcoに正式加入した50歳すぎのNels Clineと、やはり50歳すぎくらいのTim Berneのグループの常連Tom Raineyに、年齢不明だが45歳は下回ってないと思うAndrea Parkinsの、80年代後半のニッティングファクトリー周辺のミュージシャンによるトリオの即興を収録しています。数年前に同じメンバーでリリースがあります。

エフェクタを多様したノイジーだが扇情的なフレーズを繰り出すClineに、それとは独立した感情を持ち繊細なノイズを発生させるParkins、妙にプリミティブなロック的リズムを刻む(はい、主にリズムを刻んでます)Rainey。ジャム的で、プレイヤーの語彙に意図的に頼ったもので、なしくずし的に盛り上がり、純粋即興とは異なります。この扇情さに身を晒す快感、でしょうか。知的なものより、肉体的というか聴覚からくる記憶と関連した快楽のようです。
ドラムにあわせ刻々と変化しつづけ、でもカットアップ/編集的じゃなくて、ジャム的な反応を連続して行っている感覚です。同様な展開で37分と18分と、ノイズは抑えより即興を重視したタイトな4分のトラックを収録。

レーベル VICTO

[リファレンス:CD2]
The Nels Cline Singers「Draw Breath」07年 Crypt Gramophone
Devin Hoff(contrabass)/Scott Amendola(ds,perc,electronics/effects)
とのレギュラーなトリオの新作。ゲストでWilcoの同僚であるシカゴのGlenn Kotcheが打楽器で1曲参加。ギタリストらしく曲ごとに表情が変わる録音で、かつてのシカゴ/ルイヴィル周辺のような[1]、いかにもSonic Youth大好きですな[3]、15分近くトリオで高速疾走するアドリブパートだけ取り出したようなジャズ[7]。一方で、同年代のBill FrisellPat Methenyを想起させるような、叙情的な[5][6][8][9]もある。この録音も、ベースはアコースティックというところに注目してます。


新録CDタイトル 3
birds and bees

アーティスト名

林栄一(as,ss,bs)

13曲のうち、57歳の本人の独奏が4曲、「Naadam」を含む本人のサックス多重録音が3曲、45歳の外山明(ds)とのデュオが6曲。8曲は3分にも満たず、長くても6分台。6曲が、ソロやデュオでの即興。 多重録音のトラックは、音響の極楽。ジャズというより、Real Fishとか、80年代にCMとかで流れていたような、いびつなポップさがある。どういうふうに録音したんだろう。一人でこの音を重ねていく行為の、狂気に似た執念(失礼)と、出てきた音のポップさの間の落差。特に[12]。 一方で、外山明とのデュオやソロでの、音色と多彩すぎるフレージングは、この手の編成にありがちな思想的な重さや抹香臭さとは無縁の、幅広い感情を伝えてくるようなもの。息とめて聴きほじる按配になる壮絶な微細ノイズ即興合戦[5]のあとに、フレイズ感たっぷりなソロ[6]での、ひとやすみ具合なんて、ほんとよい湯加減。同様な[11]のあとも、前述[12]ですし。 叙情的なメロディを5分以上も紡ぐソロ[8]が、ひとつのハイライトで、ソロに感じられない。フレーズの途切れ目に、いまにもグループが、ばっと音を出してくるような妄想がとまらない。 [9][13]といったすばらしくジャズ的な記憶を喚起させるリズムとの関係は、頭や指先だけで作ってない証左とか、思ってしまう。 たぶんシーンとはまったく直結しない個人的な録音なのだと思いますが、音楽趣味の異なる多様などのひとのiPodに入っていても、おかしくない普遍的なものに聴こえる。それがジャズ好きならなおさら、ですか。

レーベル Studio Wee

[リファレンス:CD3] 林栄一「MAZURU」90年 オーマガトキ 「Naadam」が収録されている初リーダー作。このアルバムはちょっとオーバープロデュースではないか、と思っている(ほんとに失敬)。いくらなんでもこんなにオーネット的にやることはないじゃないか。でも、この音のインパクトのせいで、自分にとっていまでも、林栄一は遅れてきたポストパンク期のジャズのひと、という認識になっている。それも散っていったタイプじゃなく、DIY的にしぶといタイプとして。





 

 



 

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