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2012 私のお気に入り or Best 3 By GOTO

 

■ 新録CD

新録CDタイトル 1
是安則克/ラッシュ・ライフ

2011年9月に亡くなった是安さんの追悼盤であり、生前リーダー作がなかった氏にとって初の「是安則克」名義のアルバム。近親者によって制作された。全てとは言えないがキャリアを網羅している内容。ジャズのオーソドックスなスタイル、インプロ寄りなフリーと、楽曲はバランス良く選曲されている。是安さんという類まれな才能を持ったベーシストの世界への入門として、これ以上に最適な作品はないだろう。既出と未発表どちらも収録されているが、リマスタリングされていて音質も非常に聴き応えがある。
「バークリー出身でニューヨークのコンテンポラリー・ジャズが好きみたいな日本の若手ジャズマンは、みんな是安さんや吉野弘志さんと共演したがってますよ」以前あるジャズ・ミュージシャンからそんな話を聞いてものすごく意外でハッとしたことがある。吉野弘志、是安則克。自分の勝手な考えだが、両者は中央線ジャズを代表するベーシストである。そして二人が初めに名を成したグループのリーダー、吉野さんは坂田明、是安さんは林栄一。源流を辿れば山下洋輔なのである。山下洋輔〜中央線ジャズという泥臭い流れと、現在のNYのコンテンポラリー・ジャズという高度に洗練された流れは、自分は一瞬結びつかなかったのだ(両者とも好きなのだが)。自分の浅薄な聴き方を反省させられる出来事だった。
そんなことを考えながら、いまこの「ラッシュライフ」を聴いていると、感慨以上に、新たな刺激が自分の感覚に訪れる。新鮮だ。収録されている1990年「マズル」の林栄一「サークル」なんて、いま聴いても聴きながら頭の中がものすごい高速でグルグル回転する感じです。いややはりジャズすごいです。


新録CDタイトル 2
ブルース・スプリングスティーン/レッキング・ボール

「本作は近年のアメリカ(と世界)の社会情勢を色濃く反映したアルバムだ。08年9月のリーマンブラザーズの経営破綻に端を発する世界的な経済危機が人びとの暮らしに大きな影を落としている。11年9月にNY市の金融街で始まった「オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街を占拠せよ)」はたちまち全米と世界各国に「オキュパイ」運動を広めた。1%の富裕層の強欲が99%の人々の生活を苦しめているとして、格差を是正して公平な社会の実現を求める運動だが、スプリングスティーンのこの作品「レッキング・ボール」には、まさに99%の厳しい暮らしと1%への怒り、そして公平な社会への希望が歌われている。」(以上、「レッキング・ボール」日本盤・五十嵐正さん解説より引用)
  日本語圏以外のロックは、言葉の意味わかんないから音だけ聴いてるわという、非常に怠惰で鈍感すぎるリスナーである自分だが、ブルース・スプリングスティーンのこの新作に関しては思うところが多分にあった。スプリングスティーンの衝動がリアルに伝わり胸を打った。自分も何か動くべきと思った。非常にダサい言い方だが、同時代を生きているロックという感覚を久々に味わった。日本ではブルース・スプリングスティーンの人気や評価は低すぎる。ノートランクス「極める!」イベントでもディープに語っていただいた評論家・五十嵐正さんのスプリングスティーン論考はぜひ時間があれば触れていただきたいと思う。また、野田努や田中宗一郎という評論家がエレキングという音楽誌の新年号の対談で「日本の音楽シーンにはスプリングスティーンのような存在がなぜいないのか?」を語っているのでぜひ読んでみてほしい。そして、ぜひともこの作品を腰を据えて聴いてほしい(ジャズ・ファンでスプリングスティーンのファンっているのだろうか、ほとんど聞いたことない)。「社会的なことや政治的なことを歌っているからいい音楽だ」なんてことはもちろんない。しかし音楽性、衝動、メッセージ、そしてプロのちゃんとした仕事が混じりあったとき、時代を変える、あるいは聴き手を強烈に感化するような表現が生まれる瞬間があるのだと、この「レッキング・ボール」を聴いて自分はあらためて考えた。

 

新録CDタイトル 3
リクオ/ホーボー・コネクションVOL.1

何年か前に友部正人のライブで演奏を聴いたり、以前からリクオの音楽には触れてはいたが、作品を買ったのは今回が初。この作品に飛びついた最初の理由は、ずばり「お得感」。なにしろCD2枚組プラス収録時間120分のDVD付で税込4,000円という価格、30名近い多彩なアーティストが出演してるという充実っぷりだ。ディスクには、2010年11月〜12月に、東京、名古屋、大阪、福岡で6回開催されたイベント「ホーボー・コネクション」の模様が収録されている。シンガーソングライター・リクオのデビュー20周年を記念したイベントで、彼のキャリアに深い関わりを持つゲストがそれぞれ参加している。有山じゅんじ、梅津和時、三宅伸治、ハシケン、バンバンバザール、ギターパンダ(山川のりを)、山口洋、藤井一彦、キムウリョン、そして前述した友部正人などなど、好きな人にはよく分かるなー筋通ってるなーという色を持ったメンツ。
  ゲストがリクオ・バンドと一緒に1〜2曲ずつ演奏し、かつ「アイ・シャル・ビー・リリースト」もやったりしてるので、まったくいかにもな連想をしてしまえば、「ラスト・ワルツ」のようである。ただリクオの個性なのだろう全般的には重さや厳かさよりは軽やかでよい感じの空気がまったり流れていて、それにまた救われる。休みの日に酒でも飲みながら聴くとなお気持ちいいかもしれない。名演は多い。ハシケンが唄う「ソウル」の名曲ぶりに泣き、ギターパンダの「とばせロック」に笑いながらも勇気づけられ、「軽い後悔」の藤井一彦の熱いギターには拳を握ってしまう。山口洋の実に男気のある歌いっぷりに惚れ惚れする「TOKYO CITY HIERARCHY」も良い。この作品で僕は初めて聴いたキムウリョンという人の何とも天然なキャラも魅力的だ。この作品のおかげで買いたくなるCDや観たいライブが増えてしまった。
  リクオは現在48歳。この作品の出演者の多くがその同世代。40歳がもうすぐ近づいてる今の自分にはこういう一世代上の人たちがやってる音楽ってのが、やけにリアルに響いてくる。60代前半の友部さんや梅津さんの音楽は常に憧憬であるが、この作品で聴ける50歳前後のアーティストの醸し出してるものには、これからの自分にとってのヒントがあるように思える。CD・DVDともにラストで歌われる感動的な「パラダイス」の中で、リクオは高田渡のこんな言葉を引用する。「死ぬまで生きる!」。名言だ。


 



 

 

 

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