2008 私のお気に入り or Best 3 By Goto

 

■ 新録CD

新録CDタイトル 1
WE 11 / MIX DYNAMITE / MD014

アーティスト
メンバー

板橋文夫オーケストラ
レーベル
2008年リリースされた板橋文夫関連音源は今作を含め2枚あった。もう1枚のほう、峰厚介リーダー名義でのカルテット(=フォー・サウンズ)による「プレイズ・スタンダード」は板橋ファンにとってはどうにも煮え切れない、率直に言えば、硬直したジャズ像(ジャズ=大人の音楽、みたいな思考停止)をなぞっている感が強い作品で、いまひとつ、いやふたつみっつぐらいグッとこないものであった。おそらく峰のファンの多くにも同じように受け止められたのではないだろうか。なにかいきなり批判めいてしまったが、現在の峰や板橋のライヴでの、彼らの音楽のキレ・創造性・深さに接している身とすれば、今の彼らのすごさを捉えるにはあまりにずれたアルバムのコンセプトとプロデュースには到底納得できなかった。
 では、板橋文夫自身によるプロデュースで制作され、彼のレーベルから発売されたこの「WE11」はどうかと言えば、これが想像以上に、現在の板橋のジャズを100%伝える密度の濃い傑作となった。板橋オーケストラ待望の録音という意味だけでなく、2000年代の板橋文夫の歩みが集約されたと言ってもよいほどの音楽的豊潤さと熱がここにはある。
 と書きながら、正直に告白すれば、最初このアルバムを聴いたときは自分はそれほどピンとこなかった。11人という大きい編成から放たれる強力な音圧(音のでかさ)が理由だろうか、力技と荒っぽい雰囲気がさきに耳にきてしまい、まあ板橋オケらしくて悪くはないけどなあ・・なんて消極的な感想を抱いた。今思えば、ファンだからこその先入観が耳を曇らせていたのかと思う。しかし時間が経ちふと思い立ってこのアルバムを再び聴いたところ、まったく違う聴こえ方がしてきた。きっかけは3曲目「アジットさん」だろうか?板橋らしいアフリカ音楽から影響を受けたと思しき楽曲。徹頭徹尾を変拍子が貫く。小山彰太と外山明の打楽器部隊の活躍からも分かるように強固なリズムを最重視。そこに林栄一・片山広明をはじめとした個性派フロント陣の濃密な音の色彩が重ねられていく。この曲をちゃんと聴いただけでも、決して力技だけではない、リーダー板橋の構想とアイデアが隅々まで行き渡った優れたラージ・アンサンブルものとしての魅力が、このアルバムの聴きどころだということが理解できる。
 切なさ全開の板橋メロディを堪能できる5曲目「サイクリング・ブルース」と9曲目「ムーン・ダイン」は新たな板橋クラシックとして記憶されるであろうし、田村夏樹が大々的にフューチャーされいい味を出す8曲目「ローリング・ストーン」もハイライトのひとつ。ソロはそれほど長尺ではないのだが、曲に合わせてソリストたちは手癖からは離れたすごく選んだ新鮮な音を鳴らしている、という風に感じられるのは、集中できるスタジオ録音の効果だろうか、いやそれだけ板橋ワールドが彼らにとって緊迫感があり刺激的だからなのだろう・・、そんなことを考えて聴いていたら、ふいに最後の「フォー・ユー」での板橋の美しすぎるピアノが飛び込んできて、思わず泣きそうになった。いやもう理屈はいいです、やっぱりいいな!!板橋文夫!
 「渡良瀬」などの70年代和ジャズの流れで板橋文夫を再発見した若い音楽ファンには、この作品でぜひいまの板橋(今年還暦)に触れてほしいし、マリア・シュナイダーの洗練も好きだけど、日本人の情念や感傷にもやっぱり気持ちが動くんだよなという人にも、このオーケストラの作品は間違いなく届くはず。言うまでもなく中央線ジャズを愛する人にはど真ん中であろう。いやそれより何より、日本の全国津々浦々で日々繰り広げられる板橋のライヴに一度でも触れ心を打たれた経験を持つあなたにこそ、この作品は聴いてほしい。繰り返すが、この作品には現在の板橋文夫のすべてが詰まっている。


新録CDタイトル 2
Live At The Village Vanguard U

アーティスト
メンバー名

Paul Motian
レーベル
WINTER&WINTER
2007年にリリースされたニューヨーク・ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤(VOL.1)の続編。VOL.1と同じ2006年の12月のライヴから選曲されている。一見とっつきやすい音では決してないが、耳を開いて聴けば、このバンドの音のヒリヒリとした感触はストレートに胸に突き刺さってくる。独特な重いグルーヴに覚醒させられる。聴いたことがあるようでない、しかしジャズの歴史の重みを背負っている、そして未来を感じさせるバンドの音。ポール・モチアン(そして菊地雅章も)という超ベテランに対して未来なんて言葉を使うことに違和感を覚える方がいたら、ぜひともこの作品を聴いてほしい。2008年に出会ったジャズの新譜で、他ジャンルに対しても堂々と対峙できる現在進行の音を出していた作品を一枚挙げてくださいと言われれば、僕は迷いなくこれを挙げる。みんなすごいが、あえて言えば、クリス・ポッター。このモチアン・バンドでの彼のサックスの深さは、突き抜けている!


新録CDタイトル 3
Theo Jorgensmann & Oles Brothers

アーティスト
メンバー

Alchemia
レーベル
HATLOGY
日本で言えば、梅津和時、原田依幸、片山広明などかつての生活向上委員会の中心メンバーと同年代のドイツのクラリネット奏者THEO JORGENSMANN。主にフリージャズ畑で活動を続けてきた彼は、おそらくは若い頃は生向委と同じような音楽を聴いて、自身の音楽にも反映させながら演奏活動をやってきたに違いない。このライヴ盤から感じられるブレのなさからそう勝手に直感した。リズム隊のポーランド出身のOLES BROTHERSは、THEOの子供ぐらいに当たる若い世代。この兄弟は日本では無名だが、本国およびヨーロッパでは実力を高く評価されていて、KEN VANDERMARKやDAVID MURRAYとも録音を残している。この3者がぶつかりあいながら生み出す音が壮絶すぎる熱いライヴ盤。これは燃える。THEO、そしてOLES弟が以前それぞれオーネット・コールマン・トリビュート作品を出していたことから、たまたま興味を持った一枚であったが、ゴールデン・サークルの頃のオーネット・トリオを彷彿させるグルーヴが感じられるかなとも思う。

 

新録CDタイトル 次点
スガダイローの肖像
LENNIE'S PENNIES

アーティスト
メンバー

スガダイロー
平井庸一

レーベル
PICTUS
マシュマロ


スガと平井という新鋭の2作品は音の方向性としては両極端だが、日本のジャズへの異議申し立てという点では、ともに同じぐらいの強度を持っている。二階堂和美にジャックス「堕天使ロック」を唄わせたり、やばかった頃の山下洋輔トリオをカバーしたりと、かなり意識的な挑発的行為をしかけるスガ。彼の、ジャズを外に開いていこうとする姿勢はとても眩しくとても頼もしい。そして、レニー・トリスターノというジャズのなかでもきわめてディープな領域を追求していく平井の内へ内へと向かうストイックな方法論は、同時に、ジャズという音楽の底なしの深さを我々に感じさせてくれる。そう、この2作品には近年稀に見る揺るがない信念がある。

 

■ 復刻CD

個人的には2008年の後半にひたすら毎日オーネット・コールマンのキャリアを追って聴きまくったことは、自分の音楽聴き人生でものすごく重要だったなと思っている。なんだかジャズというか音楽に対して初心に帰ったというか、衝動を取り戻したようにも思える。なので、もちろん、初CD化部門第1位は、オーネット71年のライヴ音源。2位の松風さんの81年音源も、これもまためちゃくちゃかっこよかったですね、素晴らしいです。ドルフィーのようなキレまくる音もあったり、テナーに持ち替えて森山威男とのバトルがあったりと。この作品については、村上さんが以前書いてらっしゃいますので、そちらをご参照を→http://notrunks.jp/cdreview/cdreview/cdreview_003.htm
すみません、最後はジャズじゃないのを選んでしまいました。オーティスの名盤としてよく挙げられる「ライヴ・イン・ヨーロッパ」(67年)と同内容だけど録音は確実にこっちのほうがいい音源と、同時期のこちらは未発表のロンドン公演を収めたお得な、復活スタックスよくやったぞ、という発掘盤。オーティスもバンドの音もテンションが高くなりすぎて収拾つかなくなっている演奏なのですが、もうかなり興奮して、泣けました。

 

復刻CDタイトル 1
LIVE IN PARIS 1971

アーティスト
メンバー

ORNETTE COLEMAN
レーベル
JAZZ ROW

 

復刻CDタイトル 2
グッド・ネイチャー

アーティスト
メンバー

松風紘一
レーベル
AMJ

 

復刻CDタイトル 3
LIVE IN LONDON AND RARIS

アーティスト
メンバー

OTIS REDDING
レーベル
STAX

 

 

 

 







 

 



 

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