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CD REVIEW> 大西順子 リーダーアルバム (4.13.05)    >>back

 

2005年4月5日火曜日、この日は私にとって忘れられない日となるだろう。
4〜5年行方をくらましていたピアニスト大西順子がトランペッターの大野俊三の伴奏者とはいえ遂に復帰した日なのだから。その復帰初日のコンサートに居合わせたのは本当にラッキーだった。
大西順子と言われてもここ4,5年でジャズ・ファンになられた方にはピンとこないだろうが、最近の女性ピアニスト・ブームのさきがけとなった人で、デビュー・アルバムのWOWは今でも傑作の誉れ高い。
昨今の多くの新人がビル・エヴァンスを信奉し目標としているが、彼女はほとんどソッポをむいている。耽美な演奏など屁の河童なのである。 一言で演奏スタイルを表現すると、「男らしい!」である。惚れ惚れするほど硬質で、一本気で、イナセなのである。
6年の間に8種類のアルバムが制作された。現在は2枚を残して廃盤あるいは製造中止となっている。復活のこの機会にリーダー作を総括してみるのも悪くはない。中古市場では手に入る物も多い。
なお、★の数は私の評価。


 

 

 

ワウ
1992
月録音 ★★★★★

このアルバムの衝撃は忘れられない。
私は当時立川の地下にあった新星堂ディスク・イン立川店に勤務していた。当時のジャズ状況は今とそれ程変わらない。
メジャー・レーベルがジャズの制作から徐々に撤退し始めた頃で、本物のジャズミュージシャンは発表の場を失い自主制作を余儀なくされた。普通ならメジャーからデビューすべき林栄一や片山広明をオーマガトキから発売したのもこんな状況からだ。
輸入盤をマークせずに国内盤のメジャー物ばかり追っかけていると最低だった。 要するにジャズもポップスと同じように売れるものが良いもので売れないものは価値のないものと判別されはじめたのだ。バブルの崩壊がもたらした経済論理の復活である。
そんな時期に経済論理の大権化、東芝EMIからJ-POP並みの宣伝広告費をかけて20台半ばのロン毛女がデビューした。ばかヌカスナ、ジャズはそんな甘いもんじゃない!送られてきたサンプル
CDは放置されたままだった。 1週間程たった昼時の暇な時間帯。ラテン系の人間なら昼寝の頃、何気なく封が切られたWOW
最初の1音からぶっ飛んだ。
中身を入れ間違えたかとトレーを開けて確かめる。CDには大西順子トリオWOWとプリントされていた。ジャケットで判断してはいけない。ロン毛のいい女だからってエヴァンスの亜流と決め付けてはいけないのだ。
オリジナルが素晴らしい。
エリントン、モンク、オーネット、選曲が抜群だ。打楽器的に弾かれる黒いタッチに打ちのめされる。 とにかく、聞いたことがない人は是非聞いてほしい。
私のピアノ・トリオ・アルバムの歴代ベスト5にはランクされる超傑作である。サイン入りと保存用とアナログと、3種類を所有していながら、中古盤で見つけるとまた買いたくなる。


 


クルージン
1993
年4月録音 ★★★★

私の大西に対する羨望は熱病に冒された少女そのものだった。
新星堂が発行する音楽雑誌「ミュージック・タウン」の編集部にお願いして大西順子の単独インタビューを断行(そのときの写真)。93年5月11日のことで、何故それほど記憶が鮮明かと云うとWOWのジャケットにインタビュー終了後にもらった日付入りサインのせい。この時には既に「クルージン」のレコーディングは終了していた。インタビュウーの模様はいずれ機会をみて採録してみたいが、物凄く自信家で生意気な女だったってのが第一印象。実名を挙げて日本人ミュージシャンをコケ下ろしていた。私が大西と個性的な左手のタッチが光るエディ・コスタとの類似性を挙げた時など、「アメリカにはそんなピアニストは腐るほどいる」と猛烈に反発されたのを覚えている。
さて、このアルバム。ファーストの爆発的セールスに呼応してかベースにロドニー・ウィテカー、ドラムにビリー・ヒギンスの黒人リズム・セクションを従えたアメリカ録音となった。
聞き物は冒頭の「ユーロジア」。大西のオリジナルの中でも特に重要な曲だと思う。レニー・トリスターノを意識して弾いたと本人のコメントがあるが、なるほどクールで重い。 全9曲中3曲がエリントンの選曲と、彼女のエリントンへの羨望が垣間見られる。そこだろうな、他の新人ピアニストと決定的に違う音のセンスは。
ピアノは撫ぜるものではない叩くものなのだ。と私は深く納得する。

 


ライヴ・アット・ヴィレッジ・ヴァンバード1
V.V.2
1994
5月録音 共に★★★

東芝EMIの戦略が次々と展開される。
若手黒人リズム・セクションを率いてジャズの聖地での実況録音盤が制作された。94年9月に発売された第一集はスイングジャーナルのゴールド・ディスクを獲得(この冠を戴くには巻頭カラーページに数10万から100万円近く費用のかかる広告を載せる必要がある。知っていた?)当時のウイントン・マルサリスのリズム隊を起用。大西は誰と組んでも大西で悪いはずはない。が、翌年2月発売、無冠の2集のほうがおもしろい。
冒頭の「ハウス・オブ・ブルーライツ」。
おいおい、エディ・コスタの名演曲じゃないか、大西。モンクの「ブリリアント・コーナーズ」。美空ひばりのあたり曲「りんご追分」と選曲が素晴らしい。 

 

ピアノ・クインテット・スイート
19957月録音 ★★★★★

WOWと並ぶもう一つの傑作。
アメリカからベテラン・トランペッターのマーカス・ベルグレイヴと若手ベーシストのロドニー・ウィテカー。マダガスカル出身でパリ在住の若手ドラマー、トニー・ラベソン。アジアを代表するアルト奏者、林栄一。世界的規模で強力な布陣のクインテットが組まれた。
表題曲の1曲目から凄い!野性的なタッチで大西のピアノが強烈に輪舞する。ここでは林もバックに徹して大西を大いに盛り上げる。 エリントン〜モンク〜オーネットそしてここで2曲採り上げられたチャールス・ミンガスと大西の趣味趣向が完全に披露された。ストライド奏法を範とするピアノ奏法。エリントン〜ミンガスと継承される重厚で濃密なアンサンブル。それら愛し吸収したスタイルが大西のフィルターを通過して大西の個性として開花したのだ。
ここでのもう一つの聴き所は林栄一のサックス。一般にはフリー色の強いアルト吹きと捉えられている林だがバップを吹かせても超一流なことを証明した。林のアルバムとしても屈指の作品となる。 一時、大西は林を慕い彼の自宅まで教えを請いに行ったほど。林のリーダー・バンドにサイドメンとして参加するほどだったのだが、東芝の戦略構想から逸脱したためその機会は早々と消滅する。
残念だった。

 

 

プレイ・ピアノ・プレイ
19967月録音 ★★★

ヴィレッジ・ヴァンガードの次に東芝の考えた戦略は有名なジャズ・フェスティヴァルへの出演だった。スイス、フィンランド、ドイツの3ヶ所でライヴ・レコーディングされた音源が7曲収録されている。内後半5曲がオリジナルで海外の客に対しての戦闘意欲の表れだろう。 特に後半3曲はモントルーの録音で、客の数も多そうでトリオものっているが、かなりラフな演奏で、そこがライヴらしいと言われればそうなのだが・・・。


 

ザ・セックステット
1997年1月録音 ★★

大西名義ではない。
この頃から若手の育成と云うか交流を積極的におこなうようになる。プロデューサー的な立場で支援する大西である。売上げをバックに東芝での発言力が増したのだろう。今の綾戸智絵的立場かな。 一ピアニストとして名を連ねている。
岡崎好郎tp、多田誠司as、川嶋哲郎ts等々からなるオールスターセッション。みんな上手い人ばかり。でもこんな演奏は食傷気味だ。強いリーダーシップこそジャズの魅力で往々にしてオールスターものはつまらない。

 

パンドラ
199712月録音 ★★★★

3枚組みの大作。
大西がプロデューサーとして再度登場。
演奏者としても自己のトリオや双頭カルテットを率い、サイドメンとしても大活躍。総勢16名からなるジャズ・ミュージシャンが手を変え品を変え、リーダーをチェンジして録音された24曲。この当時の日本の4ビート界を俯瞰する内容となった。このアルバムから巣立っていった人も少なくない。
大西が人気と実力を武器に東芝を恫喝?し、姐御的発想でジャズを盛り上げたアルバムであると同時に、新人中堅の実力を世に紹介した貴重な企画であった。
大西=日野元彦トリオの「アス・スリー」、岡淳カルテットの「パパイアの味」、大西、本田珠也&ネイバーズ「フレンズ・アンド・ネイバーズ」・・・といい演奏が多数ある。
数曲でエレクトリック・ピアノを操り、これが次回作への布石となったと思われる。

 

フラジャイル
19987月録音 ★★★★

ここで大西は大変身する。
アコースティックな4ビート路線から、武器をエレクトリック・ピアノやクラヴィネットに持ち替えて未知なる領域に踏み出したのだ。ベース奏者にも電気ベースをもたせ、選曲もジミ・ヘンドリックスやクラプトンの在籍したクリームの大ヒット曲等180度の方向転換。今までの大西ファンは驚いただろうし東芝も面食らったのではないだろうか。
これが原因で摩擦が生じ引退、隠遁へと加速したと推測する。
私は逆にこのアルバムがあるからこそ大西を評価する。もっと自由に好奇心旺盛にチャレンジしてほしい。
つぎはドフリーでもやってもらいたいものだ。

 

大西の復帰を心から歓迎する。
ジャズの希望の光がまた一つ増えたのだから。

 

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