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ローランド・カーク伝 書評 (週間読書人
2005年4月8日号 掲載
)
2000
年にアメリカで出版されたラサーン・ローランド・カークの伝記
BRIGHT MOMENTS:The Life and Legacy of Rahsaan Roland Kirk
の待望の翻訳書である。
労作である。3年に及ぶ徹底した調査と膨大なインタビューの数々。残されたカーク自身の生の声を収めたカセットの類。そして記録として残るアルバム。それらを大きな鍋の中に入れグツグツと長時間煮込み煎じられた漢方薬。苦い、不味い、怖い。しかし本当に健全な耳を持ちたい、本当のブラック・ジャズを味わいたいならこの漢方薬を避けては通れない。
白状すると私自身、1960年代〜70年代の日本ジャズ界の大方がそうであったようにカークを誤解していた。マイルスのクールさやコルトレーンの誠実さや純粋さが好きでジャズ・ファンになった者にとって、カークのピエロ然とした衣装や3本同時演奏の方法はグロでありギミックと捉えられた。1980年代に入り、私より一世代若い垣根のない音楽感性の持ち主の熱い支持のもと、カーク再評価が高まったと記憶している。それは硬直したジャズ雑誌ではなくロック雑誌から始まったと。
カークに「ジャズ」ミュージシャンのラベルはしっくりこなかった。それは、体に合わない真新しいアルマーニのスーツに無理やり彼を押し込むようなものだ。分類不能。彼は未知の領域に向かう恐れを知らない実験者で旅行者だったことに加え、ジャズの伝統の生きた宝庫だった。
カークはコルトレーンをとても愛し尊敬していた。同時代の本物の巨人だと公然と賞賛した。コルトレーンの多階層トーンと卓越した演奏技巧だけでなく崇高な哲学にも感化された。
「ローランド・カークが好きだ。俺はホントにローランド・カークに会いたい、俺たちと演奏してほしいと思っている。俺たちのムードは違うが、カークがやっていることと同じレベルのムードもあると俺は思っている」その後彼ジミ・ヘンドリックスとカークの共演はロンドンのロニースコットで実現する。
元アニマルズのエリック・バートンがガラガラ声で囁いた「俺にとっちゃ彼は、アメリカの大都市の中心に移植された、本当に本物の黒人で、本物のアフリカの精神だ」
コメントのほんの一部を紹介した。多くのミュージシャンに尊敬された。そして彼もエリントンやコルトレーンやモンクやコールマン・ホーキンス・・・本物を尊敬し愛した。2歳での悲劇的な失明。41歳の短すぎる人生は苦難の連続だった。超人的な反骨精神と不断の努力が天才を更に磨き上げた。ステージでのラジカルな発言は敵も作ったが、多くの人々の人生に影響を与えた。「ずっとステージの上にいられさえすればいいのに。この上はとても平和的なんだ」
死の2年前カークは右半身を麻痺させる卒中に襲われる。しかし僅か5ヵ月後片手で舞台に復帰する。驚くべき音楽への執着力。「試練にあんたのスピードを鈍らせてはいけない。あんたは、あんたが超える試練のボスにならなければならない!」まさにブラック・クラシカル・ミュージックを知る上の必読書である。
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