M's Selection Section 3

ジャズ批評最新号「和ジャズ1970-90」が発売されている。
前号「1950-70」の、特に50年代物に知らないものが多く採り上げられ
興味深く読ませてもらったこともあり、早速購入した。
70年、80年代のジャズ特集と云うことで1970-89とするのが正確な表記だろう。
もし90年も含むのなら、90年録音の林栄一の大傑作MAZURUが採り上げられて
いないのは解せない。
私がプロデュースした作品ってこともあって「マズル」には人一倍愛着がある。
今、聴いてみてもその革新性や林の作曲センスに胸が熱くなる。
あ、脱線しそうだ。89年までの特集だから選出されなかったのだろう。

で、200枚のアルバムが選ばれている。
評論家の岩波洋三氏が選んだ100枚をベースに後藤誠一なる御仁が追加修正して
選定された。とある。6枚のアルバムがセレクトされたのが菊地雅章。
ま、妥当かな。渡辺貞夫、なんと2枚。フュージョンが多かったからしかたないか、
でも「Sadao Watanabe」くらいは入れるべきだ。

佐藤允彦、本田竹広、日野皓正が各3枚。山下洋輔、森山威男、板橋文夫が各2枚。
こんなもんですか!?
菊地の「ススト」は採り上げられて日野の「ダブルレインボー」は何故消されたのか。
「イントゥ・エタニティ」、「寿歌」はどうした。本田の「サラーム・サラーム」、森山の「スマイル」、山下の「マル・ウォルドロンに捧ぐ」、「イン・ヨーロッパ1983」は。

怒りを通り越して可笑しさがこみ上げてきた。
偏り無くできるだけ多くの人を紹介したいので・・・とあるが、ジャズもどきの素人に毛の生えたようなヴォーカルをこんなに登場させる必要が果たしてあるのだろうか。
一枚のアルバムさえ採り上げてもらえぬ人が他にたくさんいるではないか。
「生活向上委員会」は怖いもの聴きたさで買い求めたそうで、好んで聴いているわけではないそうだ。でも資料的には重要だとさ。で、梅津和時も片山広明も原田依幸も板谷博も早川岳晴も吉田哲治も篠田昌巳も・・・無視か。そんなのジャズじゃなくてキワモノだってかい。

松風鉱一は忘れたのか、それとも知らないのか、井上敬三や藤川義明は?
和ジャズとはその字「和」が示すように「なごみ」なのだそうだ。
そして「大和ジャズ」とは大なごみジャズだそうだ。そうかいそうかい、それなら私はこれから和ジャズってネーミングは絶対使わない。だって恥ずかしいもの。

このセクション3では選からもれた和ジャズなどと言う軟弱なものではない、
日本人=極東ジャズの穴を埋めていきたいと思います。

 

■ vol 030 Dynamite (11.9.2006)

リーダー名 : どくとる梅津バンド
メンバー :  梅津和時as,ss, 片山広明ts,bs 早川岳晴b 菊地隆ds

タイトル:  Dynamite
録音年月日: 1983年5月
レーベル/規格番号: London /L28N-1011

収録曲: A1.Off the door A2.Down Down A3.In my shoes A4.Jayne B1.Canal B2.Coffee music B3.Pyrosis B4.Pretty kranke B5.Dynamite

REVIEW: メールス出演が先だったのかこのアルバムの録音が先だったのか定かではないが、83年の5月にアメリカで録音された。録音エンジニアは名高きデイヴィッド・ベイカー。ゲストにギターのフレッド・フリスが参加。多分DUB史上一番お金をかけたプロジェクトだったと推測される。
Off the door
。早川の重低音ベースのリフにかぶさるフリスのアナーキーなギター。梅津、片山が咆哮する。テリー・ジェノアのヴォイスが重なる。冒頭を飾るに相応しい豪華でアヴァンギャルドな曲。
全体にフリスが参加している割にフリスの存在感が薄いのがこのアルバムの一番の難点だが
In my shoesではかなりフリスが活躍する。
どこか万里の長城を想わせるような雄大でエスニックな
Canal
フリスのヴァイオリンがフィーチャーされた
Coffee music(皮肉なタイトル)。と聴き進むにつれて、購入時にこれは凄い!と思った感想が薄れてきた。策を弄し過ぎているのからだろうか。・・・多分そうだろう。
長尺のアドリブこそがドク梅の命だと再確認する。

 

■ vol 029 8eyes and 8ears (10.7.2006)

リーダー名 : 梅津和時=Dr.Umezu Band
メンバー :  梅津和時as,片山広明ts,早川岳晴b,菊地隆ds

タイトル:  8eyes and 8ears
録音年月日: 1985年11月
レーベル/規格番号: ITM 971412

収録曲: 1. Tourists from japan/Nokyo 2. Dekoboko-Yama 3. 1970 4. Tango 5. Keep your hands off the door

REVIEW: 1985年はDUBにとってある種ピークだったのかも知れない。春に東京ニュージャズ・フェスに出演、忌野清志郎とのコラボレーションバンド、デンジャーの2枚目を録音し、年末にはドイツに楽旅。手土産代わりにドイツ録音のこのアルバムを発売する。
ドイツでの録音、しかもスタジオ(程度は知りませんが)録音。結構張り切ったのだろうと想像できる。それが証拠にベスト盤的色合い濃し。 「1970」「タンゴ」「オフ・ザ・ドア」等代表曲が目白押し。
しかしこのジャケットの最悪のセンス=浮世絵芸者が災いしたのか殆ど話題にも上らないアルバム。演奏は良いのに惜しい。

 

■ vol 028 Live at Moers Festival (9.5.2006)

リーダー名 : 梅津和時=Dr.Umezu Band
メンバー :  梅津和時as,片山広明ts,早川岳晴b,菊地隆ds

タイトル:  Live at Moers Festival
録音年月日:  1983年5月21日

収録曲:  A1.Gotoo is gone A2.Down!Down! B1.Pop up B2.Jayne

REVIEW: わが国最強のファンク・フリージャズ・バンドだった「どくとる梅津バンド=D.U.B.」の全吹き込みをここで整理しておこう。


1.  1981.
Plays Deluxe
2.  1982.
Danger
3.  1983.
Live at Moers Festival
4.  1983.
Dynamite
5.  1984.
IQ84
6.  1984.
Do-Guwow!
7.  1985.
DangerU
8.  1985.
8 eyes and 8 ears
9.  1986.
D
10. 1985.
Thorn  第1回東京new jazz fes.における4バンドの抜粋盤。

全10作品。
新星堂=オウマガトキ・レーベルから発売されている「D」と、忌野清志郎がらみのデンジャーの2枚、2と7以外の入手は難しいと思う。オークションや中古屋めぐりで見つかるかもしれない。
全てのレビューをするつもりだ。

最初に採り上げるのは一番の愛聴盤のこれ。 もの凄い拍手と歓声でスタートする。既に何曲か披露した後なのだろう、梅津の日本語での挨拶「ドイツの皆さんこんにちは。どくとる梅津バンドです。メンバーを紹介します・・・」やがて梅津のソプラノが憂いを秘めた哀しいメロディーを謳う。西洋と東洋が交錯するマーチ。あるいはシルクロードの市場の音楽。あるいはチンドンとジプシーとフリージャズの融合。
現在の梅津、片山、早川の全てのルーツ音楽と言っても過言ではない。ところで後藤さんってどこの後藤さんなのだろう?「ゴトー・イズ・ゴーン」
鎮魂歌「ダウン!ダウン!」での片山のバリトンの重厚さ!(また吹いてくれ!) 梅津の空中サーカスの如き楽器身のこなし。まさに両輪サックス。
早川の独壇場。 歌うベースの真骨頂「ポップ・アップ」梅津機関銃乱射、片山バズーカ砲炸裂。
最後はオーネット・コールマンの「ジェイン」。
選曲までがイカシテル。

1983年ドイツはメールスでのライヴ。しかし、このセンスの悪いジャケット。日の丸。神風特攻隊ってワケ?確かにそんな雰囲気は感じられるのだが・・・。

 

■ vol 027 Jazzbuhne Berlin ‘83 (7.13.2006)

リーダー名 : 山下洋輔=Yamashita Yosuke
メンバー :  山下洋輔p, 林栄一as, 武田和命ts, 小山彰太ds

タイトル:  Berlin 83
録音年月日:  1983年6月24日

収録曲:  1. Panja 2. Mitsi Getsi Suite

REVIEW: 海賊盤である。したがって山下洋輔のディスコグラフーにも一切の記述が無い。
1983年、ドイツがまだ東西に分裂されていた頃の東ドイツのジャズフェスでの記録だ。
ベルリンの壁が壊され東西が統一された90年に、オーネット・コールマンや藤川義明イースタシア・オーケストラのライヴ音源と共に突然市場に出回った。
曲名の表記は
CDに記載されたとおり忠実に再現した。謎の2曲目表記だが、どうも「蜜月」のようだ。
前回採り上げた「イン・ヨーロッパ1983」の2曲目「ハネムーン・スイート」と同じ曲だから。
何故このような表記になったのだろう?
前作は多分録音を前提としてのライヴだったので10分強の長さにコンパクトにまとめられている。
しかしこちらの「蜜月」は47分。
おもいのたけをぶちかます。


林栄一33歳

 

■ vol 026 In Europe 1983 (6.15.2006)

リーダー名 : 山下洋輔=Yamashita Yosuke
メンバー :  山下洋輔p, 林栄一as, 武田和命ts, 小山彰太ds

タイトル:  In Europe 1983Trio+1
録音年月日:  1983年7月8日

収録曲:  A1.Panja Suite A2.Honeymoon Suite A3.Strawberry Tune B1.Picasso

REVIEW: 林栄一との衝撃的な遭遇は、81年の晩秋は新宿コマ劇場でのことだった。

「山下洋輔リサイタル 寿限無・ライヴ」とタイトルされた企画もので、
筒井康隆や矢野顕子、中村誠一等の豪華ゲストに混じっての登場だった。
いや豪華なゲストなど関係なかった。トリオ+1として登場した武田と林の壮絶な
サックスバトルこそが最大のハイライトだった。

林栄一。この無名に等しかったアルト奏者をこの夜目撃したからこそが現在の私を形づくったのかもしれない。それほどこの夜のコンサートの林栄一は凄かった。その後、今は無き高円寺のジャズバー「ペンタゴン」や「アケタの店」を通じて林と急接近していく。
1985年には同志を募り、東京ニュージャズ・フェスティヴァルをスタートさせる。
2回目の86年からは常連となる林。 1990年。40歳になった林にリーダー作が無い事は、レコード産業に対する不信感を私に抱かせた。そして、新星堂=オーマガトキ・中央線ジャズ・シリーズをスタートさせることとなる。
あの81年のコマ劇場と83年のドイツでの録音が全ての始まりだった。

「ようすけ・やました・カルテット」のアナウンス後、山下がモチーフを提示、すぐさま林のアルトがアクセルを目一杯に踏み込む。 林の名作「ストロベリー・チューン」での滑らかでエッジの効いたアルト。
B面一杯を占める「ピカソ」林のスピード感。名曲「回想」の一節も登場する。
続く武田のテナーも大和魂爆発。(決して大ナゴミ魂ではありません) 山下洋輔が爆破させた最後の閃光だった。

 

 

■ vol 025 Good Nature (6.9.2006)

リーダー名 : 松風鉱一=Matsukaze Koichi
メンバー :  松風鉱一as,ts,fl初山博vib望月英明b,森山威男ds

タイトル: Good Nature
録音年月日:  1981年5月9,11日

収録曲:  A1.What Masa Is・・・She Is Out To Lunch A2.Under Construction A3.Good Nature B1.Yellow Sands B2.Warm Park B3.Easy Going

REVIEW: メジャー・レーベルからの初アルバム。
と言ってもトリオ・レコード。現在のオーディオ機器ケンウッドの前身が70年頃から84年までレコード事業に参入していた時期の産物。
メジャーと云う概念は、当時の保守的なレコード屋のオヤジが何の努力をしなくとも自動的に新譜案内書とやらが送られてきて、オーダー数を記入すれさえすれば店に在庫できたメーカーのこと。要するにレコード組合に参加したメーカーだ。前作までのコジマ録音等は、努力しなければ在庫できなかったマイナー・レーベル。
トリオについては書かなければいけないと何時も思っていた。
ECMを日本に紹介した会社であり、ストラタイーストやインディアナヴィゲーション等の真にクリエイティブなレーベルを配給し、本田竹広を筆頭に邦人ジャズの地平を切り開いた70年代の最重要メーカーであった。プロデューサーであった稲岡、丸茂、原、福井の各氏、等々現在も日本のジャズ界に強力な影響力を及ぼす多くの人材を輩出した。
極端な話、トリオのお陰で日本でのジャズは延命してきたと言っても過言ではない。
さすがトリオ。で、松風鉱一のサードだ。
王者の風格といった感じのテナーが朗々と歌う1曲目。「ボディ&ソウル」のコールマン・ホーキンスや「イン・ア・センチメンタル・ムード」でのアーチー・シェップを想わせる。聞き惚れる。

望月の重厚なベースパターン、森山のエルヴィンを彷彿させるリズム。
アルトが狂おしく乱舞する2曲目。
3曲目のアルバム表題曲はマーチング・バンド・スタイルでスタート。アルトながらアルバート・アイラー的だ。
続くB面1曲目もアルト。1曲リリカルなフルートの曲を挟みラストへ。 最後にテナーの曲を配す。
現在と違ってアナログ時代は曲の配置が凄く重要だった。A面1曲目とB面1曲目、それとラスト。が重要だったと思うのだが。
松風テナーと森山の息詰まるガチンコ対決。残念ながら3分強の長さ。
もっと聴きたい!
CD化を願う! (2008年8月 CD化されました!)

 

■ vol 024 Earth Mother (6.6.2006)

リーダー名 : 松風鉱一=Matsukaze Koichi
メンバー :  松風鉱一as,ts,fl 大徳俊幸p 川端民生b 古澤良治郎ds

タイトル: Earth Mother
録音年月日:  1978年1月27日

収録曲:  A-1.Images in alone A-2.Earth Mother B-1.Zekatsuma Selbst B-2.Round Midnight B-3.Don’t Worry About Tenor Saxophone

REVIEW: 29歳の時に録音されたセカンド・リーダー作。
本来は東宝レコードから発売すべく制作されたが、実現せず、コジマ録音から発売された。 実は生活向上委員会名義で1976年に録音されたアケタズディスクの「ライヴ・イン益田」があるのでサードに当たるのかも知れない。

生向委に関してはよく解からない。梅津和時や片山広明や原田依幸の組織した同名バンド(正確には生活向上委員会大管弦楽団)とは別の明田川荘之や松風鉱一がメンバーだった生向委が存在したらしいのだ。そのうち謎を解明したいと思っている。

フルートの曲で幕が開く。現在でも松風の主要な武器であるフルートだが、専門ならいざ知らず、副楽器のフルートをここまで鳴らす人を私は他に知らない。大徳はフェンダー・ローズを弾く。
アルバムタイトル曲「アース・マザー」。執拗に繰り返されるリズムパターン。 やがて高揚し聖なる世界へ。 バタやんのベース、古澤のドラムの粘着力が素晴らしい。

コルトレーンから啓示を受けたであろう「ゼカツマ・ゼルブスト」。情熱的で躍動感に溢れた松風、切れ味鋭いリズムセクション。
唯一採り上げられた他人の曲、モンク作「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」。 ここでは大徳が抜けたトリオ編成。古澤と対決するかのような緊張感溢れるモンクである。
最初のフルート曲以外はアルトで通したアルバムだが最後にテナーに持ち替える。彼の主楽器はアルトかテナーか、意見の分かれるところだろうが私はテナーをとる。いい音している。テナーもっと吹いてくれ!

テナー訳で前作に比較すると全体に落ち着いた、大人になったアルバム。
しかし秀作である事に間違いはない。

私は誰でしょう?

 

■ vol 023 At The Room 427 (6.3.2006)

リーダー名 : 松風鉱一=Matsukaze Koichi
メンバー :  松風鉱一as,ts,b-cl,山崎弘一b,古澤良治郎ds

タイトル: At The Room 427
録音年月日:  1975年11月21日、97年3月21日

収録曲:  1.R 2.Acoustic Chicken 3.Theme of Seikatsu Kojyo Iinkai 4.Little Drummer 5.Lover Man 6.Theme of Seikatsu Kojyo Iinkai 7.R

REVIEW: 松風27歳のファースト・リーダー作。
1975年に国立音大の先輩、古澤をバックに中央大学の学祭でライヴ録音されたものだ。

R
(レクイエム)とタイトルされたトップとラストの曲のみCD化に際し後年ソロ録音したものが追加収録されたが、アルバムの構成をいささかも歪めるものではない。

2曲目、古澤作曲の「アコースティック・チキン」。
音響鶏?良治郎の駄洒落かな?野太いベースが先導する。コルトレーンの「ヴィレッジヴァンガード・アゲイン」を連想するのは私だけだろうか。古澤のドラミングも現在よりはるかにジャズよりでエルヴィンを彷彿させる。磐石なリズム隊を背に松風のアルトが変幻自在。ドルフィーの如く。
20分を超える長尺な演奏だが途中弛緩することはない。
3と6は松風作の「生活向上委員会のテーマ」となっているがどこかで聞いたような曲。
「ブルース・イン・ザ・クロセット」だったか?
学生時代の作品だという「リトル・ドラマー」は鋭角な曲。若いジャズ魂が隅々まで行き渡る。全員が挑戦的で清清しい。
スタンダード、「ラヴァー・マン」の幾何学模様のような解釈も素晴らしい。
若き情熱溢れる名盤だ!

 


 

 


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